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「やばい、勝つ、勝った!と思ったのに....」
ゴール後、西谷泰治はミネラルウォーターのボトルを
ラッパ飲みしながら悔しさをにじませた。
今日のレースは、開始30分ほどで、
2人の選手が集団から「逃げ」だした。
まだまだ、行程は長い。
集団は安定し、ほとんど動きらしい動きはない。
日本チームも集団の中で、ここぞという瞬間に備え、脚を休ませる。
差は3分差まで開いた。
7人ほどの選手が大集団から「逃げ」出し、
力を合わせて、「逃げ」た2人を捕まえるべく、追跡を始めた。
この集団にさえも、誰も選手を送り込めなかった
昨日の優勝者=”レースの「リーダー」"を抱えるチームは
集団の先頭に集結し、集団のペースを上げるべく全力で走る。
集団から「逃げ」た選手をすべて吸収した130km地点からレースが始まった。
3人の「逃げ」が決まる。
1分差ほどで続く8人の集団が形成されたが
こちらは、小周回の入り口で大集団に再合流。
この小集団の力では、力を合わせても、
逃げる3人を捉えられないと判断したようだ。
フィニッシュラインを含む12km程度の小周回が
全てを決める舞台となった。
「いいか、逃げは捕まったぞ、ここからレースだからな」
無線で選手たちに語りかける大門監督の声を背に、
勝負をかけてこの周回を回る選手を撮るため、
私はチームのサポートカーを降りる。
150km以上走った選手たちの前にそびえ立つ
フィニッシュラインに向かう坂はかなりの勾配だ。
しかも、ベルギーを思わせる石畳......。
撮影ポイントを探していたら、
サイレンを鳴らす先導のパトカーがやって来てしまった。
あわててカメラを構えると、ぐんぐんとペダルを踏み込んで
選手が一人上って来た。
すぐに、もう一人、そして、同じくらいのごく短い間隔でもう一人。
無線で聞いていたレースナンバ−、56、1、115。
「逃げ」ている3人の選手だ。
3人か...
タイム差を計ろうと、時計に目をやった瞬間、
私の立っている歩道に、ふっと選手が現れて、あわててブロック上に避ける。
そうか、走りにくい石畳を避けるために、セメント敷きの歩道で上るのか....
すぐ選手が一人、すべるように続いて上って来たのが視界に入った。
反射的に、シャッターを切った、らしい。
私の下を通り抜ける選手のジャージの色に、
思わずカメラを外してその姿を追う。
西谷だ!
この上りに、皆が顔を歪めている中、
西谷はただ、ぐっと前をみつめながら、
するすると、てっぺんへとペダルを回して行く。
先頭とのタイム差はほとんどない。
この上りを越えれば、下りが待っているはずだ。
ゴールに絡んでくる可能性は十分にある。
ヨーロッパ初の遠征、初のステージレースで、この健闘...
思わず、かける声すら出て来なかったけれど、
坂を上っていく背中に向け「頑張って..」想いだけ送る。
少々置いて、一気に選手たちが上って来る。
集団の中から、日本人選手を探す。
フィニッシュラインを越え、
オープンカフェの店先に構えられたポディウムを横目に、
先頭が、西谷が現れるのを待つ。
先導のパトカーの気配に、緊張の色が走った。
来る....
姿を現したのは2人の選手。
ポイント賞のグリーンのジャージが高々と手を挙げた。
西谷はその後にぱらぱらと続く数名の選手たちの中でゴール。
そこそこの順位は付いたに違いない。
大健闘だ。
どうやら、西谷は最終周回で逃げたらしい。
何人かで先頭の3人を追い、その中の一人を吸収、
7人のグループでなおも前方を行く2人を追い、捕まえ、
最後の石畳の急坂が、決戦のポイントとなったそうだ。
「このまま勝てるかと思ったんですけど、周りの協力が得られず.....」
語る西谷に、「そんなもんです」
チームカーに腰掛けた飯島がコメント。
先輩としての愛情がにじんでいて、思わず心が温まる。
神妙な顔で飯島のことばを聞く西谷。
この従順さから来る吸収力が、また彼の力になっているようだ。
それぞれの想いを胸に、サンドイッチをほおばる選手たち。
最初のステージは、緊張もあり、とても疲れるらしい。
今日はゆっくりカラダを休めて回復に努めて欲しい。
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