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最初の山岳賞はブルージャージを着た56番がトップで通過した。
続くはチームメイトの57番。
山岳賞ジャージを着るチームメイトを守ろうという動きだろうか。
「いいか、こういう瞬間、気をつけろよ」
大門監督の無線が飛ぶ。
こういった賞が設けられたポイントの後は、皆一瞬気が緩むため、
集団から「逃げ」ようとする動きが出て来るということらしい。
そしてその忠告通り,18人の「逃げ」が生まれた。
「誰も入ってないのか?
入ってないならスピードが落ちたとき一気にいけよ」
日本チームからは一人もこの「逃げ」に乗っていないようだ。
「捕まったらすぐに次の動きがあるから
反応できるように集団の中段より前にいろよ」
この「逃げ」は40km地点で吸収された。
「いいか、真鍋、飯島、西谷のそばにいろよ。
前半には絶対に逃げがある。
西谷、いいか、自分で仕掛けるんじゃなくて、動きがあったら行けよ」
無線は、選手が「逃げ」ようとしては、集団に吸収された、という情報を繰り返す。
2名の選手が「逃げ」ようとしているという無線が流れた20分後、
4名の選手の「逃げ」が決定的になり、タイム差は2分25秒と通告された。
今日のコースは3つの山を含む。
道路の状況はあまり好ましくない。
道幅が異常に狭かったり、砂利などで荒れているところもある。
5分40秒まで差を開けたこの「逃げ」だが、一人が脱落。
後続の集団からも、選手たちがが追い上げを始めた。
先頭の3人を追う集団は、前から遅れた選手を吸収し22人で前を追う。
その差それぞれ、2分30秒、1分30秒。
つまり、トップとメイン集団の差は4分ということになる。
この22人のレースナンバーが読み上げられたが、
中にジャパンの選手のナンバーはない。
145km地点。
あと17kmで、最後の上りが始まる。
この山岳賞がかかった上りを終えれば、20kmを下り、ゴールに向かうのみだ。
調子が良くない岡崎のことも頭をよぎったに違いないが
ここで監督の決断が下った。
「飯島、岡崎、真鍋、新保、前に行って引け。
いいか、タイミングを合わせて引けよ、前の集団まで2分以内だ。
いいか、追いつける圏内だからな。
上り始めまでの15kmだけでいいからな、力一杯引けよ、追いつけるからな。
西谷、お前は中段より前にいろよ」
日本のジャージが集団の先頭に集まり、集団のスピードを上げるべく
全速力で加速するのが見えた。
追いつけるのか.......?
「いいぞ、いいぞ、その調子」
差は20秒縮まったが、非情にも、集団は上りにさしかかる。
「上り始めだぞ。
いいか、西谷、ペースを落とすな。
集団のペースが落ちるようなら、別府と一緒に行け。
いいか、誰かと一緒に行けよ」
この162km地点から始まる上りは、コースマップで見てもひときわ高い。
ここを越えてしまったら、あとはゴールまで一気に下るのみ。
もう、ひっくりかえすことは不可能だ。
「西谷、行けるようなら行けよ。」
「あ、行った」
フロントガラスから集団の様子を伺っていた監督が
ちょっと間の抜けた声を上げた。
西谷は、集団から一人抜け出した。
それに反応した3名ほどの選手が、
加速して上って行くのが小さく見える。
この上りで「加速」....
西谷のために渾身の力で集団を引いた選手たちが、
力を使い果たし、ぱらぱらと走っている。
「一人で行くな、集団があるからそこまで我慢して集団でいけよ」
抜きざまに、窓から一人一人に声をかける。
チームカーは、新保と別府を含むメイン集団の後ろに付けた。
「新保、別府、この集団から誰も逃がすなよ」
ときどき、遠く彼方に前を追う西谷たちの姿が見える。
無線は押し黙り、情報が流れて来ない。
「たぶん、西谷にはもう先頭の3人が見えているでしょうね。
追いつけるといいんですけど....
西谷と一緒に行ったのは前に行きたくてしょうがない奴らでしたから、
パワーありますから、行けますよ。」
無線がしゃべり出した。
『残り1km』
先頭はもう1kmを残すのみらしい...
西谷は、どこまで行かれたのだろうか。
車内にも沈黙が続く。
フィニッシュ近くのパーキングに入ると、西谷の姿が見えた。
「追いついた?」
首を横に振る西谷。
車に腰掛けさせて、マッサーの森川が、力を出し切った脚を拭く。
西谷と一緒に行った選手たちは、上りには極めて強いが
異常に下りが遅かったらしい。
全ての選手が次々と帰還し、西谷に追いつけたのか、
口々に結果を聞く。
これが、エースのプレッシャーか....
残すは1ステージ。
今日の結果を、明日に活かしてほしい。
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