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今日が最後のステージ。
たぶん、ここまでアシストしてもらったことや、
エースとしての責任感に駆り立てられ、
レースが始まる前から、たとえ何があっても
今日は行こうと思っていたのだろう。
ちょうど、レースの中間地点に差し掛かり最初の山岳賞を越えたころ
無線は集団が『逃げ』たことを伝えた。
その中には、西谷泰治のナンバーが入っていた。
「行ったか...」
「ジャージの集団」の逃げという無線の情報に、スタッフは鋭く反応する。
リーダージャージを着た選手が含まれていたら、
集団、逃がすまじと、すごい勢いで追跡して来るだろう。
当然、逃げが決まる確率はぐっと低くなる。
だが、山岳賞ジャージだったらしい。
順調にタイム差は開き、西谷の集団は7人になって、各集団間の動きも安定した。
大門監督の無線は、集団から誰か抜け出したら、
必ず一人着いていけ、集団から逃がすな、と指示を送る。
西谷がいる集団を、メインの集団からできる限り遠くまで逃がすためだ。
西谷のいる先頭集団に続き、8人の集団が形成されたが
メイン集団から距離を稼ぐことができず、上りを前に吸収された。
「いいか、中段より前で上れよ」
上りに差し掛かる前、選手たちに指示が飛ぶ。
逃げ始めて30分ほど経ったころ、
無線で、日本チームカーは前に上がってもよいという指示が入る。
集団にいる選手たちに飲み物等を手渡し
脇を抜けて、前に上がっていく。
後続の集団は、今回のレースの最有力チームペルトニーナが
集団の前方に集結し、全力で引いているため、
先頭が彼らのジャージの黄色に染まっていた。
今日のリーダージャージは55番、
グリーンジャージが56番と両方ウィルプールの選手である。
3秒差で総合2位につけるペルトニーナの100番の選手が
2回スプリントポイントを連取するなど、積極的な動きを見せていたが、
先頭にはリーダーはおろか、総合の順位に絡むような選手は誰も入っていない。
なぜ、ここまで体力を消耗しながら集団を追っているのか、
あまりよくわからなかった。
全ての集団を抜かし、車を加速して、やっとサポートカーを発見する。
そこに居た3人の選手。
わかっていたはずなのに、やはり、思わず声を上げた。
西谷だ!
海外のレースシーンで、集団にこれだけの差をつけ、
先頭交代をしながら逃げる西谷の姿を見るのは、
私にとって大きな感動だった。
すごい、すごい....
「いいか、いいペースで逃げてるぞ。
後ろはペルトニーナが全力で引いてるけど、
お前たちには全然追いつきもしてないからな」
大門監督が西谷に無線で語りかける。
「追う理由は、ありませんよね?」大門監督がつぶやく。
先頭集団の国籍を見ても、チェコのチームのスロベニア人とクロアチア、日本人....
結局のところ、こういう「逃げ」を逃がすかどうかは
その選手が同郷だったり、過去に他のレースでお世話になっていたり、と
人間関係上の要素も大きいのだそうだ。
ただ、確かにこの3人と後続の差は一定のものをキープしているが、
このさらに前方にもう一人の選手が逃げていたのだ。
ありえないことに、最後の上りで、その差は、さらに激的に開いていく。
「いったいどうなっているんだ?」
どうやら、前を「逃げ」ているのはU23の世界チャンピオンらしい。
そのありえないスピードに愕然とする。
残り10km。
だんだん、後続との差が詰まって来た。
「ぎりぎり、逃げ切れるか.....」
しかし、一方ではトップの選手との差は着実に開いている。
残り5km、差は40秒...
逃げ切れるのか....
祈るような気持ちでゴールに先回りする。
そこにまず飛び込んで来たのは、
逃げ切りを決めたクルカチームのスロベニア人、brajkovic Janezだった。
そして、待つことしばし。
カーブを曲がって見えたのは.....砂煙を上げて突進して来る大集団だった。
...吸収されたか....。
結局、西谷泰治は20位ほどでゴールイン。
あと、ほんの少しのところで飲み込まれたという。
残念だが、これがレースだ。
無念いっぱいの表情ではあったけれど、
初めてのステージレース。
よく積極的に頑張ったと思う。
この経験は絶対に次につながるはずだ。
個人総合優勝は、ペルトニーナの100番BOZIC Borut。
今日手に入れた2回のスプリントポイントのボーナスタイムのために、
大逆転を起こし、個人総合優勝を手に入れたそうだ。
華々しくはなくとも、きっちり勝って行くのが、
強豪チームと言われる所以か。
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