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2005ロード世界選手権
男子エリートタイムトライアル

開催場所:マドリッド・カサ・デ・カンポ 44km(21.9km×2)
2005年9月22日 13:00〜


男子エリート 個人タイムトライアル

JPCA・ディスカバリーチャンネル

29位(56:47:37)
写真

前日、交付された出走リストには、上から2番目、2人目の走者として
別府史之の名前が記されていた。
13:02の出走である。

今回、史之が走るのは44km。
過去に別のレースで同じ区間を走ったことがあるそうだが、
これだけの長い距離のタイムトライアルは初めてだと言う。
本来U23の年齢であるが、プロツアーカテゴリーのチームに所属する
ために、エリートカテゴリーでの出走を求められる。

                   ◇◇◇

日本が待ちわびた「スター」の登場
近年、世界の壁があまりにも高く、
日本代表からタイムトライアルへの派遣は見送られることが多かった。
(02年の岡崎和也のみ)

だが、今年、可能性を秘めた期待の星が現れた。
それが、別府史之である。
本場欧州で、タイムトライアルを始め、好成績を打ち出してきた彼を
世界選手権で走らせてみてはどうだろうか....。

いきおい、そんな史之に期待はかかるが、弱冠22歳の初挑戦である。
今後につながる経験になってくれれば、と、
将来への期待をこめて、この大舞台に出走することになった。

日本人、外国人スタッフともすっかり打ち解け、
選手団にも見事に溶け込み、
毎日笑顔を見せているが、
背負ったプレッシャーは相当のものであったろう。

さらりと、この日のために、一日4時間以上も
タイムトライアルバイクに乗ったと語る史之に
普通は耐えられることではないと、選手一同が感服していた。

ガイドとして加わっているドゥニに、コース上の注意点を聞く。
所属チームでは英語を使用する史之だが、
ここでのコミュニケーションはフランス語だ。

                   ◇◇◇


選手団の先陣を切って、タイムトライアルの日がやって来る。
朝食は一人早めに摂り、8時ごろからアップに行くことになった。
さすがに、緊張の色が見え隠れする。

マドリッドの夜明けは遅い。
朝焼けの中、田園風景の中へと、史之がこぎ出して行く。
タイムトライアルバイクに乗り、ポジションを取る史之の背中が
やわらかい光に輝いて、思わず見ほれるほど美しかった。

いい集中だ。

3年ほど前から史之を知っている浅田監督が車を運転し、
史之をフォローする。
「史之、いいんじゃないでしょうか。
昔から狙ったものは、きちんと取りに行くタイプでしたからね。
タイムトライアルには、熟成が要らない。
スピードが保てれば、いけるわけですから。」

いよいよ、出発
身体の中を温め、ホテルに帰るころには、陽はすっかり昇っていた。
「緊張してる?大丈夫?」と笑顔で出迎えた沖選手に
「集中するのは、まだまだ早いですよ」と
いたずらっぽい笑顔をみせた。

浅田監督が炊いた白いごはんで、最後の腹ごしらえ。
日本のふりかけが懐かしい。

応援に行かれない選手たちは、トレーニングに向かう。
なんとなく、出かけて行く史之を気遣っているようだ。

ときおり、沸き起こる緊張の波を飲み込むように息をつくが、
史之は出かけるまで、皆に屈託のない笑顔を向け、軽口をたたいていた。

会場入り
会場に着くが、まだ他の選手はあまり来ていない様子。
ユーロスポーツのレポーターを務めるジャッキーデュランや、
ヴィランクがテントを訪れ、コメントを取り、
バイクのギアなどをアドバイスして去って行く。
あの「悪魔おじさん」までもが、応援にやって来た。

テントでローラーに乗り、20分前にスタート地点に移動。
いよいよだ。

今日は出走する選手を4分割し、
それぞれの選手を1分半間隔で出走させて行く。
史之は第1グループの2人目スタート。

カウントダウンに合わせ、出走台から勢い良く飛び出して行った。
順調なペースで1周目を終える。
だが、唯一の相対比較対象となる第1走者のペースがかなり速く、
自分の位置が分からなかったようだ。

全力でフィニッシュラインを越えた史之のタイムは56分47秒37
明らかに、結果には満足していないようだった。

回して行けば良かった!
「最初、回して行ったんだけど、タレたから
踏んで行こうと思ったら、もっとタレてしまった...
ああ!回した方が、速かったよ!」と悔しげに、
しかし周りを気遣って、冗談めかして語る。

背負った期待
テントには、次から次へと取材の記者がやってきて、
今日のレースや、今年の活動についてインタビューして行った。

初めて、プロとして走ることになった今年。
しかも、ディスカバリーという世界のトップチームからのスタートだ。
その環境のすばらしさ、そして、
プロとして、職業としてレースに出ることの重さ、将来へのビジョン。
一人一人に、英語とフランス語を駆使しながら、
表情豊かに、ジェスチャーを交えて堂々と語る。

テントに備え付けられたテレビには、
次々に出走して行く選手と更新されて行く順位が映し出される。

自分の位置が分かって来ると、
史之の表情が和らいで行った。
結局、史之は29位だった。
あのシャバネル(フランス)よりも好タイム、大健闘と言っていいだろう。

それでも、結果に満足したというわけではない。
今シーズンはもうすぐ終わるが、
皆に向けた笑顔の下で、もっと先を見据えている、そんな印象だった。

皆の期待は重いであろうが、それをエネルギーとして、
さらに大きく、強くなってくれる、そんな予感を漂わせながら、
史之はマドリッドを去って行った。